「サボる」「ダサい」「ビビる」——これらの言葉を聞いて、どんな印象を持ちますか?「若者言葉」「最近のスラング」と感じる人も多いのではないでしょうか。
しかし、これらの言葉には意外な歴史があります。フランスの労働運動に由来するもの、江戸時代の川柳に登場するもの、そして「埼玉県が語源」という俗説が広まったものまで。今回は、身近な俗語の知られざる語源を探っていきます。
「サボる」の語源はフランス語
「仕事をサボる」「学校をサボった」など、日常的に使われる「サボる」。この言葉は、実はフランス語が語源です。
「サボタージュ」と木靴の関係
「サボる」の語源は、フランス語の「sabotage(サボタージュ)」です。さらにその語源をたどると、フランス語で木靴を意味する「sabot(サボ)」に行き着きます。
19世紀のフランスでは、労働争議の際に労働者が木靴で機械を蹴り壊して抗議したという逸話があります。このことから「sabotage」は「破壊行為」「妨害行為」を意味するようになりました。
木靴で機械を破壊したという話は伝説的な要素もあり、実際には「木靴を履いた(=貧しい)労働者たちが労働争議を起こした」ことが語源だという説もあります。
日本に入ってきたのは大正時代
日本で「サボタージュ」という言葉が使われ始めたのは、大正時代のことです。1919年(大正8年)に大阪朝日新聞が労働争議の戦術を「サボタージュ」と表現したこと、または1920年(大正9年)の川崎造船所の怠業事件に関する書籍で使われたことがきっかけとされています。
当初は「労働争議の戦術としての怠業」という意味で使われていましたが、次第に「怠ける」「ずる休みする」という軽い意味に変化していきました。「サボタージュ」が「サボ」と略され、さらに「〜る」をつけて動詞化されたのが「サボる」です。
「サボる」は、フランス語の名詞を日本語の動詞に変換した珍しい造語です。同様の造語法には「ミスる」「トラブる」「ググる」などがあります。
「ダサい」の語源は「田舎」?「埼玉」ではない
「ダサい服」「ダサいデザイン」など、野暮ったい・垢抜けない様子を表す「ダサい」。この言葉には複数の語源説がありますが、有名な「埼玉県が語源」という説は俗説です。
有力説は「田舎(だしゃ)」から
「ダサい」の語源として最も有力とされているのは、「田舎」を「だしゃ」と読み、形容詞化した「だしゃい」が転じたという説です。田舎は都会に比べて流行が遅れているというイメージから、「垢抜けない」という意味が生まれたと考えられています。
ただし、この説にも疑問の声があります。「田舎」を「だしゃ」と読む実例が見当たらないことから、「ダサい」の音に合わせて後から牽強付会されたのではないかという指摘もあります。
「ダ埼玉」説はタモリの洒落
「ダサい」の語源として広く信じられているのが、「だって埼玉だから」が略されて「ダサい」になった、あるいは「ダメな埼玉」が語源だという説です。
この「埼玉語源説」は誤りです。タレントのタモリさんが1980年代に『笑っていいとも!』などで「ダサい」と「埼玉」を掛け合わせた「ダ埼玉」という造語を流行させたもので、「ダサい」という言葉はそれ以前から存在していました。
実際、『現代用語の基礎知識』の1978年版には既に「ダサい」が掲載されており、暴走族を発信源とした言葉として紹介されています。また、1975年の『平凡パンチ』には女子高生の間で使われる流行語として「ダサイ」が登場しています。
つまり、「ダサい」が先にあり、「埼玉」は後から洒落で結びつけられたというのが正しい順序です。
「ビビる」は江戸時代から存在した
「試験前でビビってる」「ビビりすぎ」など、怖気づく・おじけづくという意味で使われる「ビビる」。若者言葉のように思われがちですが、実は江戸時代の文献にも登場する歴史ある言葉です。
江戸時代の川柳に登場
「ビビる」が使われた確実な記録として、江戸時代後期の川柳集『誹風柳多留』(1765〜1840年刊)があります。
あいさつに男のびびる娵の礼
『誹風柳多留』
この句は、新しいお嫁さんの挨拶に男性が照れて縮こまっている様子を詠んだもの。当時の「びびる」は、現代のような「怖がる」という意味よりも、「はにかむ」「恥ずかしがって小さくなる」という意味で使われていました。
「鎧の音」説は要注意
「ビビる」の語源として広く流布しているのが、平安時代の源平合戦に由来するという説です。
この説によると、大軍が動くときに鎧が触れ合う「ビンビン」という音を「びびる音」と呼んだとされ、富士川の戦いで平家軍が水鳥の羽音を源氏の攻撃と勘違いして「ビビって」逃げた——という逸話と結びつけられています。
この「鎧の音」説は、複数の専門家から疑問視されています。「びびる音」という表現が平安時代の文献に確認できないこと、また「びびる」という動詞が「鎧の音」から「怖気づく」という意味に派生する経緯が不自然であることなどが指摘されています。
言語学的に有力とされる語源説は、「びくびくする」が略されて「ビビる」になったという説や、震動音を表す擬音語「びび」から派生したという説です。
江戸時代の楽屋言葉としても
江戸時代には、芸人たちの間で舞台前に緊張や気後れから萎縮することを「びびる」と言う楽屋言葉として使われていたという記録もあります。特に関西では一般にも普及しており、1970年代のツッパリブームで全国的に広まったとされています。
まとめ 言葉の歴史は面白い
今回紹介した3つの言葉の語源をまとめると、以下のようになります。
- サボる:フランス語の「sabotage」が語源。大正時代に日本に入り、労働争議の意味から「怠ける」に変化
- ダサい:「田舎(だしゃ)」から派生したという説が有力。「埼玉」語源説はタモリの洒落が広まったもの
- ビビる:江戸時代から存在し、当時は「はにかむ」の意味。「鎧の音」説は専門家から疑問視されている
若者言葉だと思っていた言葉に、100年以上、あるいは数百年の歴史があるというのは驚きです。私たちが日常的に使う言葉も、もしかしたら何百年も先まで使われ続けているかもしれません。
言葉の語源を調べてみると、歴史や文化、社会の変化が見えてきて面白いものです。気になる言葉があったら、ぜひその由来を調べてみてください。