「滑稽本」は、江戸時代後期に流行した小説の一種で、庶民の日常生活を舞台におかしみや笑いを描いた作品です。『東海道中膝栗毛』や『浮世風呂』などが代表作として知られています。
「滑稽本」の意味
「滑稽本」とは、江戸時代後期(主に文化・文政期、1804〜1830年頃)に流行した戯作の一種です。庶民の日常生活を舞台として、登場人物の言動のおかしさや失敗談、悪戯などを、会話を中心とした文章でユーモラスに描いた小説です。
遊郭を主な舞台としていた洒落本とは異なり、滑稽本は旅の道中、銭湯、髪結床など身近な場所を舞台とし、より幅広い読者層に親しまれました。
滑稽本の特徴
- 庶民生活が舞台:旅先、銭湯、髪結床など日常的な場所を描く
- 笑いが主眼:失敗談、悪戯、言葉遊びなどで笑いを生む
- 会話中心の文体:登場人物の会話で物語が進む
- 中本の書型:新書判に近いサイズで挿絵入り
代表的な作品と作者
- 『東海道中膝栗毛』(1802〜1822年、十返舎一九):弥次さん喜多さんの珍道中を描いた大ベストセラー
- 『浮世風呂』(1809〜1813年、式亭三馬):江戸の銭湯に集まる庶民の姿を描く
- 『浮世床』(1813〜1823年、式亭三馬):髪結床を舞台にした庶民模様
読み方・表記
「滑稽本」の読み方は「こっけいぼん」です。
「滑稽」は「こっけい」と読み、おどけていておかしいことを意味します。もともと中国の古典『史記』に登場する「滑稽」という人物に由来し、弁舌が巧みで話が尽きない様子を表していました。
なお、「滑稽本」という名称は明治以降に文学史の用語として定着したもので、江戸時代には書型から「中本(ちゅうほん)」と呼ばれていました。人情本も同じく中本と呼ばれ、内容によって区別されていました。
使い方と例文
- 十返舎一九の『東海道中膝栗毛』は滑稽本の代表作として知られている。
- 滑稽本は江戸時代の庶民にとって娯楽読み物として親しまれた。
- 式亭三馬は滑稽本で銭湯や髪結床に集まる人々の姿を生き生きと描いた。
- 滑稽本の流行は江戸庶民に旅行ブームを引き起こしたとも言われる。
語源・由来
滑稽本の源流は、1750年代に江戸で流行した「談義本」にさかのぼります。談義本は僧侶の説法を真似た語り口で、滑稽な表現を交えながら世相を風刺したり教訓を説いたりするものでした。
寛政の改革(1787〜1793年)後、洒落本が下火になると、遊郭ではなく庶民生活を舞台とした滑稽な作品が求められるようになります。1802年に十返舎一九が刊行した『東海道中膝栗毛』が大ヒットし、滑稽本というジャンルが確立されました。
『東海道中膝栗毛』は弥次郎兵衛と喜多八という二人組が東海道を旅する道中記で、各地で巻き起こす珍騒動を描いています。好評を博して21年にわたり続編が刊行され、全43冊の大長編となりました。この作品は現代の「弥次喜多」という言葉の語源にもなっています。