「被害届」は被害者が犯罪被害の事実を届け出るもので、処罰を求める意思は含まれません。「告訴」は被害者などの告訴権者が犯人の処罰を求める意思表示です。「告発」は被害者以外の第三者が犯人の処罰を求める意思表示です。告訴・告発には捜査義務が生じますが、被害届だけでは捜査が行われないこともあります。
| 項目 | 被害届 | 告訴 | 告発 |
|---|---|---|---|
| 届出できる人 | 被害者本人 | 被害者・法定代理人など | 誰でも(犯人以外) |
| 処罰を求める意思 | 含まない | 含む | 含む |
| 捜査義務 | 生じない | 生じる | 生じる |
| 送致義務 | 生じない | 生じる | 生じる |
| 親告罪の起訴 | 不可 | 可能 | 不可 |
| 法的根拠 | 犯罪捜査規範61条 | 刑事訴訟法230条 | 刑事訴訟法239条 |
「被害届」の意味と使い方
「被害届」は、犯罪の被害者が警察などの捜査機関に対して、被害に遭った事実を届け出る書類です。あくまで被害の事実を申告するものであり、犯人の処罰を求める意思表示は含まれていません。
被害届の特徴
被害届は捜査のきっかけ(捜査の端緒)となりますが、届出によって捜査機関に捜査義務が生じるわけではありません。捜査を開始するかどうかは捜査機関の判断に委ねられます。
そのため、証拠が乏しい事件や軽微な犯罪の場合、被害届を出しても実際には捜査が行われないこともあります。
- 自転車を盗まれたので、交番に被害届を出した。
- 警察から「被害届を取り下げてほしい」と言われた。
- 被害届が受理されたが、その後の進展はなかった。
「告訴」の意味と使い方
「告訴」は、犯罪の被害者やその法定代理人など、法律で定められた告訴権者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です。刑事訴訟法230条に規定されています。
告訴の特徴
告訴には「犯人を処罰してほしい」という被害者の意思が明確に含まれています。そのため、告訴を受理した捜査機関には捜査義務が生じ、事件を検察官に送致する義務も発生します。
また、検察官は起訴・不起訴の処分結果を告訴人に通知する義務があります。
告訴権者とは
告訴できるのは以下の人に限られます。
- 犯罪の被害者本人
- 被害者の法定代理人(親権者・後見人)
- 被害者が死亡した場合は配偶者・直系親族・兄弟姉妹
親告罪との関係
名誉毀損罪、器物損壊罪、親族間の窃盗罪などの「親告罪」は、告訴がなければ検察官が起訴することができません。親告罪では告訴が起訴の要件となります。
- 名誉毀損で相手を告訴することを検討している。
- 弁護士に依頼して告訴状を作成してもらった。
- 示談が成立したので、告訴を取り下げた。
「告発」の意味と使い方
「告発」は、被害者や告訴権者以外の第三者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です。刑事訴訟法239条1項に規定されており、犯人以外であれば誰でも行うことができます。
告発の特徴
告発も告訴と同様に、捜査機関に捜査義務と送致義務が生じます。ただし、親告罪においては告発があっても起訴することはできず、被害者による告訴が必要です。
告発が使われる場面
告発は、被害者が特定されにくい犯罪や、社会的影響の大きい犯罪に対して行われることが多いです。
- 脱税や補助金の不正受給
- 公務員の職権乱用や汚職
- 選挙違反
- 環境犯罪や公害
「内部告発」との違い
マスコミなどで使われる「内部告発」は、組織の不正を内部の人間が外部に明かすことを指し、刑事訴訟法上の「告発」とは法的に異なるものです。
- 市民団体が政治家を公職選挙法違反で告発した。
- 国税庁が脱税容疑で経営者を告発した。
- 内部関係者の告発により、不正が明るみに出た。
語源・由来
「被害届」の成り立ち
「被害」は損害を受けること、「届」は届け出ることを意味します。犯罪によって損害を受けた事実を届け出る書類という意味で「被害届」と呼ばれます。
「告訴」の成り立ち
「告」は告げる・申し出る、「訴」は訴える・うったえるを意味します。被害者が自ら訴え出るという意味で「告訴」と呼ばれます。
「告発」の成り立ち
「告」は告げる・申し出る、「発」は明らかにする・暴くを意味します。犯罪事実を明らかにして申告するという意味で「告発」と呼ばれます。
使い分けのポイント
主体による違い
誰が行うかで使い分けが決まります。
- 被害者本人が被害を届け出る → 被害届
- 被害者が処罰を求める → 告訴
- 第三者が処罰を求める → 告発
処罰意思による違い
処罰を求めるかどうかで使い分けます。
- 被害事実の申告のみ → 被害届
- 処罰を求める意思あり → 告訴・告発
よくある質問
「告訴」と「告発」の読み方の違いは?
「告訴」は「こくそ」、「告発」は「こくはつ」と読みます。どちらも「告」は「コク」と読みますが、「訴」は「ソ」、「発」は「ハツ」と読みます。
「刑事告訴」と「告訴」は同じ意味?
同じ意味です。民事訴訟と区別するために「刑事告訴」と呼ぶことがあります。同様に「刑事告発」という表現も使われます。
「告発」と「内部告発」は同じ意味?
異なります。刑事訴訟法上の「告発」は捜査機関に対する処罰要求ですが、「内部告発」は組織の不正を外部に明かすことを指す一般的な言葉で、法的に異なる概念です。
「親告罪」とはどういう意味?
被害者による告訴がなければ起訴できない犯罪のことです。名誉毀損罪、器物損壊罪、侮辱罪などが該当します。「親(みずか)ら告(つ)げる」ことが起訴の要件となる罪という意味です。