目次
  1. 「煮詰まる」の本来の意味
  2. 約4割が誤用している現実
  3. なぜ誤用が広まったのか
  4. 誤解を避けるための言い換え表現
  5. 正しい使い方の例文
  6. 言葉の変化を見守りつつ、正確に伝える工夫を

「議論が煮詰まってきた」と聞いて、あなたはどんな状況を思い浮かべますか?

「話が進まなくなった」「結論が出せなくなった」というネガティブな状況を想像した方も多いのではないでしょうか。しかし実は、この解釈は本来の意味とは正反対なのです。

「煮詰まる」の本来の意味

「煮詰まる」の本来の意味は、「討議・検討が十分になされて、結論が出る段階に近づく」というポジティブな意味です。

この言葉は料理用語から生まれました。煮物を作るとき、煮汁が減って味が凝縮し、完成が近づいた状態を「煮詰まる」と言います。この「完成間近」というイメージが転じて、議論や検討が十分に行われ、結論を出せる段階になったことを表すようになりました。

ポイント

「煮詰まる」は本来、良い意味で使う言葉。「そろそろ結論が出せそうだ」という前向きな状況を表します。

約4割が誤用している現実

文化庁が平成25年度に行った「国語に関する世論調査」では、「7日間に及ぶ議論で、計画が煮詰まった」という文の意味を尋ねています。

結果は以下の通りでした。

  • 本来の意味(結論が出る状態になること)で使う人:51.8%
  • 誤用(結論が出せない状態になること)で使う人:40.0%

約4割の人が、本来とは正反対の意味で「煮詰まる」を使っていることがわかります。

世代によって意味の理解が逆転する

さらに興味深いのは、世代による認識の違いです。文化庁の調査によると、40代を境に意味の理解が逆転しています。

  • 30代:73.0%が誤用の意味で使用
  • 40代:50.3%が誤用の意味で使用
  • 50代以上:本来の意味で使う人が過半数

つまり、若い世代ほど「煮詰まる=行き詰まる」と理解している傾向が強いのです。

注意

ビジネスシーンでは要注意です。若手社員が「会議が煮詰まっています」と報告したとき、本人は「行き詰まっている」という意味で使っていても、上司は「そろそろ結論が出る」と受け取る可能性があります。

なぜ誤用が広まったのか

「煮詰まる」の誤用が広まった理由として、主に2つの説が挙げられています。

1. 「行き詰まる」との語感の類似

「煮詰まる」と「行き詰まる」は、どちらも「〜詰まる」で終わる言葉です。この語感の類似から、同じような意味だと誤解されやすいと考えられています。

2. 煮物が焦げ付くイメージ

料理で「煮詰まる」と言えば、味が凝縮して完成に近づく良い状態を指します。しかし、煮詰めすぎると焦げ付いて失敗してしまいます。この「煮詰めすぎて失敗する」というネガティブなイメージが、「行き詰まる」という意味と結びついた可能性があります。

補足

日本国語大辞典によれば、「行き詰まる」の意味での使用例は1950年頃から見られます(永井龍男『朝霧』1950年、堀田善衛『記念碑』1955年など)。ただし、実際に広まったのは2000年頃からとされています。

誤解を避けるための言い換え表現

「煮詰まる」は世代によって解釈が異なるため、誤解を避けたい場面では言い換え表現を使うのが無難です。

「結論が出そう」という意味で使いたいとき

  • 議論が大詰めを迎えた
  • 話し合いがまとまってきた
  • 意見が出尽くした
  • 終局に向かっている

「行き詰まった」という意味で使いたいとき

  • 議論が難航している
  • 話し合いが停滞している
  • 議論が膠着こうちゃく状態だ
  • 行き詰まってしまった

正しい使い方の例文

「煮詰まる」を本来の意味で使う場合の例文を紹介します。

「煮詰まる」の正しい使い方
  • 3時間の議論を経て、ようやく話が煮詰まってきた
  • 計画が煮詰まったので、そろそろ結論を出しましょう。
  • 皆さんの意見を煮詰めて、最終案を決定します。

いずれも「議論が十分に行われ、結論を出せる段階になった」という前向きな意味で使われています。

言葉の変化を見守りつつ、正確に伝える工夫を

「煮詰まる」は、本来「結論が出る段階に近づく」というポジティブな意味の言葉です。しかし現在では、約4割の人が「行き詰まる」という正反対の意味で使っており、若い世代ではその傾向がさらに顕著です。

言葉は時代とともに変化するものであり、辞書でも補説として新しい用法が記載されるようになっています。とはいえ、ビジネスシーンでは誤解を招かないことが重要です。相手に正確に伝えたい場合は、「大詰め」「まとまってきた」などの言い換え表現を使うのが無難でしょう。

佐藤文哉
この記事の監修者 佐藤文哉 編集長 / ライター歴15年